「プロのキックボクサーって、どんな人なんですか?」
会員さんに時々聞かれます。試合をテレビやYouTubeで見て、憧れたり、すごいと思ったりしている。でも「実際のところどうなの?」という素朴な疑問。
僕は現役時代、キックボクシングで2冠を獲りました。だからプロの世界を内側から見ています。今日は、その経験を踏まえて正直に話します。
プロとアマチュアの「本当の差」
よく「プロとアマの差は技術だ」と言われます。もちろんそれはある。でも僕が思う本質的な差は、別のところにあります。
プロは、調子が悪い日でも勝つ。
アマチュアは、調子がいい日に実力を出せればいい。でもプロの試合は、体調が万全じゃなくても、練習がうまくいってなくても、相手がどんな選手でも、その日その場で結果を出さなければならない。逃げ場がない。
「今日は調子が悪かったので」は通用しない世界です。観客はお金を払って見に来ている。プロモーターは興行を組んでいる。コンディション管理も含めて、全部「仕事」なんです。
そこが、一番きついと思います。技術より、精神的なプロフェッショナリズムの部分が。
「強い」と「プロとして活躍できる」は違う
これ、あまり表で言われないことなんですが——強ければプロで成功できるわけではないです。
純粋な強さだけなら、プロになれるレベルの選手はそれなりにいます。でも「プロとして長く活躍できる選手」には、技術以外の要素が必要です。
まず試合勘。練習では完璧にできることが、本番の緊張とプレッシャーの中でできるかどうか。舞台に立ち慣れる経験値は、練習では積めない。
次に体のマネジメント。減量、回復、怪我との付き合い方。キックボクサーは試合のたびに体重を作り直す。これが想像以上にきつくて、体を壊してしまう選手もいる。
そしてメンタルの継続力。負けた後に立ち直れるか。ここが一番大事で、一番難しい。試合で負けるのは誰でも経験する。問題はその後です。
僕が尊敬するプロ選手たちのこと
格闘技のプロ選手で僕が純粋にすごいと思うのは、長く第一線に居続けている選手です。
一瞬の輝きより、継続の難しさを知っているから。年齢を重ねながら、衰えと向き合いながら、それでも結果を出し続けるのは、若い頃に強いだけとは全く別の話です。
キックボクシングの世界を見ていると、若くして頭角を現してもすぐに消えていく選手がいる一方、地味に見えても10年・15年と一線を張り続ける選手がいる。後者の方が、僕は圧倒的に尊敬します。
那須川天心選手が凄いのも、技術だけじゃなくて、あの年齢でキックボクシングを極め、さらにボクシングという別の世界に飛び込んで適応している継続する力だと思っています。
プロ選手の「練習量」の話
これは本当のことを言います。
僕が現役だった頃、一日2部練習が当たり前でした。午前中に基礎練習とロードワーク、午後にスパーリングとミット打ち。試合が近づくと、これに減量が加わる。
1週間で体重を5〜6kg落とすこともある。食べたいのに食べられない、飲みたいのに飲めない、疲れているのに追い込まなければならない。
それを何年も続ける。
「格闘技選手はかっこいい」と思ってくれる人は多いし、僕も嬉しい。でもその裏には、見えないところで積み上げてきた膨大な「地味な時間」があります。リングの上の1分は、何百時間もの練習の結晶なんです。
「プロを目指したい」という人へ
TURN UPには、将来的にプロを目指したいという会員さんも来てくれています。
僕がそういう人に言うのは、まずひとつだけです。
「基礎を丁寧に、長くやれ」
プロを目指す人ほど、早く上に行きたくて焦る。でも焦って積み上げた技術は、プレッシャーのかかった場面で崩れます。骨格に染み込むくらいに基礎をやり込んだ選手は、本番でも基礎で戦える。それが一番強い。
華やかな技を覚えるより、ジャブとストレートとミドルを1000回打つ方が、長い目で見てずっと大事です。
プロじゃなくても、キックボクシングは人生を変える
最後に、これだけは言っておきたい。
プロになることだけが、キックボクシングの価値じゃない。
TURN UPに通う会員さんの大半は、プロを目指しているわけじゃない。それでもキックボクシングは、その人の体を変え、精神を変え、生活を変えています。それは本物の変化です。
プロの試合を見て「すごい」と感じる感動も、週1回の練習で「うまくなった」と感じる手応えも、根っこは同じだと思っています。
格闘技には、人を変える力がある。プロもアマも、その本質は変わらない。
そのことを、僕は指導者として、毎回の練習で伝えていきたいと思っています。