フロイド・メイウェザー・ジュニア様
突然のお手紙、失礼いたします。
大阪府高槻市でキックボクシングジムを経営しております、会長と申します。キックボクシング2冠王者の経歴を持ち、現在は指導者として日々練習に明け暮れている者です。
あなたのことは長年、遠くから愛しております。
最初に見たあの試合のこと
メイウェザー選手、あなたの試合を初めて真剣に見たとき、僕は正直「これはボクシングじゃなくて、芸術やな」と思いました。
相手がどれだけ打ち込んでも、当たらない。かわす、ブロックする、クリンチする——でもただ逃げているわけじゃなくて、全部計算されている。そして相手が疲れた瞬間、精密なカウンターが飛んでくる。
50戦して、一度もKOで負けていない。
これ、格闘技をやっている人間なら全員わかると思うんですが、普通じゃないんです。50試合のうち一度も「読み間違えなかった」ということですから。
僕なんて、試合の中で何度「あ、しまった」と思ったかわからない。あなたにはその「しまった」が50試合で一度もない。
どういう脳みそをしているんですか、と聞きたくなります(もちろん最大の敬意を込めて)。
「ショルダーロール」への愛について
メイウェザー選手、あなたの代名詞「ショルダーロール(フィリーシェル)」。あの独特の構えで肩を前に出し、相手のパンチを肩と腕で受け流しながらカウンターを狙う、あのスタイル。
僕、あれをキックボクシングに応用しようとしたことがあります。
……蹴りが来ました。当たり前ですが。
蹴りのある競技でショルダーロールをやると、肩で顔を守っている間にミドルキックが飛んでくるという悲劇が起きます。あなたのスタイルがボクシングという競技の中で完璧に最適化されているということを、体で学びました(笑)。
それでも、あの「最小限の動きで最大限の防御をする」という哲学は、格闘技全体に通じる真理だと今も思っています。
2018年12月、那須川天心選手との一件
メイウェザー選手、あなたは2018年に日本に来て、那須川天心選手とエキシビションマッチをしましたよね。
あのとき、日本中の格闘技ファンがざわめきました。「メイウェザーが日本に来た!」という興奮と、「天心vsメイウェザー、どうなる?」という期待と、「エキシビションとはいえ大丈夫か」という心配が混ざった、なんとも不思議な空気でした。
結果はご存知の通り。あなたが天心選手を圧倒した。
でも僕が印象的だったのは、試合後のあなたの態度でした。天心選手を抱き上げて、笑顔で讃えていた。世界最強の男が、日本の若きスターをちゃんとリスペクトしていた。
あなたが日本に来てくれたことで、多くの人が格闘技に興味を持った。そのことには、格闘技に関わる人間として、素直に感謝しています。
あの天心選手が今や、WBC世界バンタム級のリングで戦っているわけですから、縁というのは面白いものですね。
「Hard work, dedication.」の話
メイウェザー選手、あなたはことあるごとに「Hard work, dedication(ハードワークとデディケーション)」と言いますよね。
正直、最初は「また言ってる」くらいに思っていました。すみません。
でも指導者になってから、この言葉の重みが変わりました。
あなたは幼少期、本当に恵まれた環境ではなかった。父親が収監されていた時期もあった。それでも毎日、誰よりも早く起きてロードワークをして、誰よりも遅くジムを出た。「才能があったから強くなった」んじゃなくて、「やめなかったから最強になった」んだと思っています。
僕がTURN UPの会員さんに伝えたいことも、突き詰めると同じです。才能は関係ない。続けた人間が強くなる。
あなたのその言葉を、僕は高槻のジムで毎日使わせてもらっています。ロイヤリティは払えませんが、魂の部分で感謝しています。
「マネー」という生き方について
メイウェザー選手、あなたの派手なライフスタイルは世界中で話題になりました。スーパーカーのコレクション、高級時計、大豪邸、そして「TMT(The Money Team)」の旗を掲げたブランディング。
「格闘技選手らしくない」と批判する人もいますよね。
でも僕は、あれはあれで正しいと思っています。あなたはリング上での完璧な技術と同じくらい、自分自身をプロデュースすることにも天才的だった。試合前のゴタゴタ、プロモーション、因縁作り——全部含めて「メイウェザーショー」だった。
それを嫌う人もいるけど、結果的にボクシングの興行として史上最高額の収益を何度も叩き出した。格闘技を「見せもの」として最高峰にまで高めた功績は、試合の強さとは別に評価されるべきだと思います。
僕の規模では到底まねできませんが(笑)、「自分の価値を自分で作る」という姿勢は学ばせていただいています。
最後に、一つだけお願いがあります
メイウェザー選手、もし日本に来ることがあれば、ぜひ高槻に寄ってください。
TURN UPは小さなジムですが、本物の格闘技への愛で満ちています。ムエタイとキックボクシングの道場ですから、あなたのルーツとは少し違うかもしれませんが、格闘技者として通じるものはきっとある。
一緒にミット打ちとか……さすがに無理ですかね(笑)。
いつかどこかで、格闘技という同じ言語で通じ合えることを夢見ながら。
あなたの50戦無敗という記録と、「Hard work, dedication」という言葉に、これからも敬意を払い続けます。