僕は格闘技が好きだ。
しかしそれと同じくらい、いや、もしかするとそれ以上に——ラーメンが好きだ。
キックボクシング2冠王者という肩書きを持つ僕が、なぜラーメンについて語るのか。それは問い自体が間違っている。格闘家だからこそ、ラーメンに真剣になれる。食うことは戦うことだ。栄養を摂ることは、生きることだ。
……と、大げさなことを言ったが、単純に好きなだけである。
第一章 ラーメンとの出会い——それは必然だった
人間には、「初めて本物に触れた瞬間」というものがある。
格闘技でいえば、初めて本物のミットを打って「ああ、これだ」と思った瞬間。ムエタイを初めて見て、その美しさに震えた瞬間。
ラーメンにも、そういう瞬間がある。
僕が「ラーメンというのはこういうものか」と悟ったのは、練習後に一人で入った小さなラーメン屋だった。カウンター7席だけの、こぢんまりした店。豚骨ベースのスープに、細麺。チャーシューが2枚。
一口飲んだ。
うまかった。
それだけだ。それだけなのに、なぜか涙が出そうになった。練習で疲れていたからか、腹が減っていたからか、それとも本当に旨かったからか。たぶん全部だ。
第二章 ラーメンの流派について——これは格闘技と同じ構造だ
格闘技に流派があるように、ラーメンにも流派がある。
キックボクシング、ムエタイ、空手、柔道——それぞれに哲学があり、長所と短所がある。ラーメンも同じだ。
豚骨は、圧倒的な攻撃力を持つ重量級ファイターだ。スープの濃度、コラーゲンの量、乳化の具合——すべてが「前に出る」思想で構成されている。細麺との相性は必然であり、あのスピードがなければ豚骨の圧力に負けてしまう。
醤油は、技巧派の中量級だ。出汁の取り方、かえしの配合、トッピングのバランス——すべてが繊細で、一点の狂いも許されない。東京の老舗醤油ラーメンを食べると、「これは職人芸だ」と思う。ムエタイの首相撲に似た、距離感の芸術がある。
味噌は、北の大地が生んだパワーファイターだ。寒さの中で鍛えられた、骨太な旨味。野菜を炒め、味噌を合わせ、バターを落とす。それは北海道という土地の格闘技だ。
塩は……塩は難しい。
隠すものがない。スープの素材が全部見える。誤魔化しが一切効かない。これはまさに格闘技の「サウスポーとオーソドックスの対決」のような、シンプルゆえに奥深い世界だ。本物の塩ラーメンに出会ったとき、僕は「勝ちたければ、まず正直になれ」という言葉を思い出す。
第三章 高槻でラーメンを食うということ
高槻には、いい店がある。
僕は「どこが旨い」「あの店は外れ」というランキングをここで公開する気はない。なぜなら、ラーメンの旨さは食べる状況によって変わるからだ。
練習後に食う一杯と、休日に家族と食う一杯は、同じ店でも別の味がする。腹が減っているかどうか。疲れているかどうか。一人かどうか。——そういうことが全部、ラーメンの味に影響する。
だから僕は「旨いラーメン屋」より「旨いタイミング」を大切にする。
練習後、特にスパーリングで動き回った日の帰り道。汗をシャワーで流して、着替えて、外に出る。冬なら冷たい空気が気持ちいい。夏なら夜風が少し涼しい。そのタイミングで入る一杯は、何を食っても旨い。
でも特に、ラーメンが旨い。
第四章 格闘家とラーメンの切っても切れない関係
格闘技をやっている人間は、よくラーメンを食う。
なぜか。
カロリーが高い。タンパク質が摂れる(チャーシューとゆで卵)。炭水化物で疲れた体が回復する。そして何より、一杯で満足感が高い。
試合前の減量期は話が別だ。あのときは食いたくても食えない。水も制限される。そういう地獄の時期を経験した人間にとって、試合後に食うラーメンは——もはや宗教体験に近い。
僕は計量後、試合後に食った一杯のことを今でも覚えている。
何のラーメンだったかは正直あまり覚えていない。でも「旨かった」という感覚だけは、体に刻まれている。あの感覚は、たぶん死ぬまで忘れない。
第五章 ラーメンが教えてくれること
長年ラーメンを食い続けて、僕が気づいたことがある。
旨いラーメンには、手を抜いたところがない。
スープ、麺、タレ、トッピング——どれか一つでも手を抜くと、それがわかる。全体のバランスが崩れる。逆に、どれも丁寧に作られているとき、その一杯は「完成している」という感覚がある。
これは格闘技と同じだ。
パンチだけ強くても、キックだけ速くても、それだけでは勝てない。ガード、フットワーク、スタミナ、メンタル——全部を一定水準以上に保って初めて、試合で戦える。
ラーメンも、格闘技も、「全部を諦めない」ことの積み重ねだ。
そして、僕はまた食いに行く
今日も練習が終わった。
ミットを持って、会員さんたちのパンチを受けて、汗をかいた。体は疲れているが、頭はすっきりしている。こういう日の帰り道が、僕は一番好きだ。
さて。
今夜は何ラーメンにするか。
豚骨か。醤油か。味噌か。それとも——
考えながら歩く。この時間が、また旨い。
ラーメン隊、前へ。