「酒は飲んでも飲まれるな」——誰かが言った言葉だが、僕は何度か飲まれたことがある。
キックボクシング2冠王者で、現役時代は減量と戦い続けた男が、引退後に何を楽しんでいるかといえば——酒だ。
格闘技をやっている間は、試合前の減量で水すら満足に飲めない時期がある。そういう地獄を経験した人間だからこそ、「好きなだけ飲める」という状態のありがたさが骨身に沁みている。
今日は、そんな僕が本気で語る。
酩酊——会長が選ぶ酒20選。
ジャンルも価格帯もバラバラだが、全部僕が実際に飲んで「旨い」と思ったものだ。順番は優劣じゃない。気分と場面で飲み分けてほしい。
【ビール】まず一杯目はこれに限る
1. サッポロ黒ラベル
練習後の一杯目は、これ以外に考えられない。
ドイツ四大原料(麦芽・ホップ・水・酵母)だけで作る「パーフェクトビール」を目指して作られた一本。飲んだ瞬間の「ぷはー」が、他のビールとは次元が違う。喉を通る瞬間に、今日の練習の苦労が全部報われる気がする。
格闘技で言えば、綺麗に決まったストレート。無駄がなく、気持ちいい。
2. キリン一番搾り
一番搾り麦汁だけを使うという製法が生む、雑味のないクリアな旨味。「ビールってこういうものだ」という原点を思い出させてくれる一本だ。
居酒屋でとりあえず頼む最初の一杯に最適。「とりあえず」と言いながら、実は一番大事な一杯だから、これを選ぶのは正解だと思っている。
3. よなよなエール
クラフトビールの世界に踏み込むなら、まずここから。長野の「ヤッホーブルーイング」が作るアメリカンペールエール。ホップの香りが豊かで、一口飲むと「ビールってこんな香りがするんだ」と驚く。
缶デザインも好きだ。月夜に乾杯している雰囲気が、なんかいい。
【日本酒】和の旨さを知れ
4. 獺祭(だっさい)二割三分
日本酒に詳しくない人間でも、「獺祭」という名前は聞いたことがあるはずだ。山口県の旭酒造が作る純米大吟醸。精米歩合23%——つまり米を77%削って、残りの23%だけ使う。
飲んだことがない人に説明するのが難しい。「フルーティなのに日本酒」としか言いようがない。口に含んだ瞬間の上品な甘みと、後から来る綺麗な酸味。これはもう酒じゃなくて芸術品だと思う。
値段は張るが、特別な日に飲む価値は確実にある。
5. 久保田 萬寿(まんじゅ)
新潟の朝日酒造が作る、久保田シリーズの最高峰。「淡麗辛口」という新潟の酒の代名詞を体現した一本だ。
旨いのに主張しすぎない。食事の邪魔をしない。「縁の下の力持ち」タイプの酒で、料理と一緒に飲むと本領発揮する。格闘技で言えば、地味だけど試合を作るジャブのような存在だ。
6. 飛露喜(ひろき)
福島の廣木酒造が作る、入手困難な銘酒。「飛露喜」というのは「喜びが飛び露れる(あふれる)」という意味だ。名前からして旨そうだ。
口当たりがなめらかで、甘みと旨味のバランスが絶妙。日本酒に慣れていない人でも「これは旨い」と素直に言える一本だ。居酒屋で見かけたら迷わず頼め。
7. 田酒(でんしゅ)
青森の西田酒造が作る、「農家が丹精込めて育てた米だけで作る酒」というコンセプトの純米酒。米の旨味が凝縮されていて、飲むたびに「酒ってこういうものだった」と原点に帰る気がする。
こういう酒を飲むと、格闘技の「基本」の話をしたくなる。華やかな技じゃなく、基本の積み重ねが本物の強さを作る。田酒はそういう酒だ。
【焼酎】芋か麦か、それが問題だ
8. 森伊蔵(もりいぞう)
芋焼酎の最高峰のひとつ。鹿児島の森伊蔵酒造が作る、入手困難な幻の焼酎だ。抽選販売でしか手に入らないことも多く、「焼酎好きの聖杯」と呼ばれる。
飲んだことがある人はわかると思うが、芋の香りがあるのに全く臭くない。むしろ上品で、芋の旨味が純粋に広がる。お湯割りで飲むと幸せになれる。
9. 村尾(むらお)
同じく鹿児島の村尾酒造。「3M」と呼ばれる芋焼酎の三大銘柄(森伊蔵・村尾・魔王)のひとつだ。
森伊蔵よりも少しクセがあって、芋らしさが前に出てくる。「芋焼酎を飲んでいる」という感覚が好きな人はこちらが好みかもしれない。僕は気分によって使い分ける。
10. 二階堂
大分の麦焼酎。「二階堂」といえばあのCM——秋の夕暮れに麦焼酎を飲む、あの映像が浮かぶ人も多いはずだ。
麦の香ばしさとすっきりした飲み口が特徴で、食事中でも食後でも邪魔にならない。価格も手頃で、毎日飲める焼酎として信頼している。格闘技でいえば「基本の構え」みたいな存在だ。
11. 黒霧島
宮崎の霧島酒造が作る芋焼酎。知名度、コスパ、旨さの三拍子が揃った、居酒屋の定番中の定番だ。
「焼酎入門」として最適な一本でもある。芋の香りがあるが主張しすぎず、飲みやすい。ロックでも水割りでもお湯割りでも旨い。オールラウンダーだ。
【ウイスキー】深夜に一人で飲む酒
12. 山崎12年
サントリーが作る、日本を代表するシングルモルトウイスキー。世界的な評価が高く、入手困難になってしまったのが残念だが、飲めたときの感動は本物だ。
ミズナラ樽由来の独特の香りと、なめらかな甘み。「ウイスキーってこんなに旨いのか」と思わせてくれた一本だ。深夜に一人でチビチビ飲む酒として、これ以上のものはない。
13. 響 JAPANESE HARMONY
サントリーが誇るブレンデッドウイスキーの傑作。複数の原酒を絶妙にブレンドした、「調和」をテーマにした一本だ。
格闘技でいえば、一つの技が突出しているより、全体のバランスが完璧な選手のような存在だ。甘み・酸味・苦み・香り、全部が噛み合っている。
14. グレンリベット12年
スコットランドのスペイサイドが生むシングルモルト。「すべてのスコッチの父」とも呼ばれる歴史ある蒸留所の定番ラインナップだ。
ハチミツのような甘みとフルーティな香りが特徴で、ウイスキー初心者でも「旨い」と言える飲みやすさがある。洋酒入門として最適だ。
【ワイン・その他】気分で飲む酒たち
15. シャトー・ムートン・ロートシルト
ボルドーの五大シャトーのひとつ。「いつか飲みたい」と思い続けていた一本を、チャンピオンになった記念に飲んだ。
正直、ワインに詳しくない僕には「うまい赤ワインだ」としか言えないが、それ以上の何かがあった。あの夜の気持ちと、あのワインの味が混ざって、記憶の中に刻まれている。特別な日に飲む酒というのは、そういうものだと思う。
16. 泡盛 残波ホワイト
沖縄の比嘉酒造が作る泡盛。タイとムエタイの縁で、沖縄という「南国文化が残る土地」が好きなこともあり、泡盛への親しみは人一倍ある。
残波ホワイトはクセが少なく、コーラや炭酸で割ると飲みやすい。夏に飲むとなぜか高槻がリゾートになる気がする。
17. 梅酒(チョーヤ 紀州)
梅酒をあなどってはいけない。チョーヤの紀州は、南高梅を使った本格梅酒で、甘みの中にちゃんと梅の酸味と旨味がある。
お酒が苦手な人にも薦められる一本だし、酒好きでも「最後の一杯」として飲むと満足感が高い。ロックで飲むのがおすすめだ。
18. レモンサワー(こだわり酒場のレモンサワー)
サントリーが作る缶のレモンサワー。「居酒屋のレモンサワーを缶で再現した」というコンセプトがちゃんと成立している一本だ。
練習後にコンビニで買って、駐車場で一人でプシュッと開ける——この行為が好きだ。格式もなく、気取りもなく、ただ旨い。それでいい。
19. ハイボール(サントリー角)
角瓶を炭酸水で割る、シンプルなハイボール。外食でも家でも、安定して飲める万能選手だ。
ウイスキーの香りと炭酸の刺激が組み合わさって、食事との相性が抜群にいい。「とりあえずビール」の後に「じゃあハイボール」と頼むのが、僕の居酒屋での定番コースだ。
20. 地酒(その日その店の一本)
最後に、これを推したい。
旅先や居酒屋で「地酒ありますか?」と聞いて、店主や女将が薦めてくれる一本。名前も知らない、ラベルも見たことがない、でも「うちの地域のものです」と言われて飲む酒。
これが、一番記憶に残る酒だ。
東海道中膝栗毛の旅でも、江戸(東京)の居酒屋で飲んだ地酒が一番印象深かった。銘柄は覚えていない。でも「旨かった」という感覚だけが残っている。
酒は記憶と一緒に飲むものだと、僕は思っている。
最後に——格闘家と酒について
「格闘家が酒を飲んでいいのか」という問いに答えておく。
現役の選手は飲みすぎてはいけない。それは当然だ。減量中は当然ダメ。試合直前もダメ。でも、引退した会長が試合もないのに飲むのは、完全に自由だ。
僕が言いたいのは、酒は「楽しむもの」だということだ。浴びるように飲むことでも、誰かに見せびらかすことでも、ストレス発散のはけ口にすることでもない。
一日の練習が終わって、会員さんたちの成長を実感して、その達成感の中で飲む一杯。旅先の居酒屋で地酒を飲みながら知らない人と話す夜。チャンピオンになったときに仲間と飲んだあの酒。
そういう文脈の中で飲む酒が、旨い。
酒は、人生の調味料だ。
使いすぎると台無しになるが、適切に使えば人生が旨くなる。格闘技もそれと同じかもしれない——と、少し酔った頭で考えている。